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更新日:2020年6月30日
元日を中心とする大正月に対し、一月十四日から十六日にかけてを「小正月」といいます。太陰暦での月の満ち欠けで月々の移りを決めていた昔は、一月十五日を一年の始まりとしていました。十五日の満月祭が最も中心的な年始めの日とされたようです。
太陽暦で元日に年初が移されてからは、十五日の年初行事の一部は元日の行事になりましたが、豊穣を祈ってあらかじめ模擬する農耕与祝行事など重要な年初行事はむしろ小正月に集中して残り、複雑でまた種類も多いですね。
十四日夕から十五日にかけて、農事の順調を祝福祈願する行事があり、柿の木に傷をつけ「成るか?」と問いかける「成木責め(なりきぜめ)」や、雪の庭で田植えの仕草をする「庭田植え」、子供たちが餅を貰い歩く「チャセゴ」、農に害する鳥を払う「鳥追い」など多彩な小正月の行事が続きます。
カツノキ(ぬるで)を五寸程に切り、皮をむいたものとむかないものを戸外に立てる風習も各地にあります。これを粟穂稗穂(あわぼひえぼ)と呼びそれぞれ男性と女性に見立てる地域もあります。粟、稗の実りを模擬的に作って豊作の期待を込めた与祝儀礼と言えます。
旧宮城町大倉地区の某家では十四日の夜、人が寝静まってから当主夫妻が蒲団を背負って家の外から「何処(どこ)さ宿をとるべな」と問いかけ、中から宿を貸す旨を応えると家の中に入り裸になって、夫が「粟穂が下がった」と唱え、妻女が「実入(い)って割れた」と続け、炉を三度廻るセクシャルな予祝儀礼があります。類似する行事が隣接する旧泉町などに点在し、涌谷町旧家中にも家例として伝承されていたという調査資料もあって大変に興味深く思われます。
伝統的な祭祀が軽んじられる中、営々と伝承されてきた生活文化の習俗を今また再認識していきたいものです。
【画像】粟穂の一例・桃生郡雄勝(東北歴史博物館提供資料)
(涌谷町文化財保護委員:本郷和郎)
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